皆さまどうも!こんにちは!毎週週末に配信、シナリオ関係でお世話になっている「株式会社共幻社」さんと共同ではじめました「ネクロス国の死霊魔術」のスピンオフWEB小説の第九話を配信いたします!
<本編の概要>
死霊魔術を扱う種族が集まった”ネクロス国”を舞台とした、女王「アンジェリカ」とその家臣「レイミ」。今回は侯爵より、メイドドール4体を納品するよう依頼を受けますが…なんと、そこにあるはずもない5体目のメイドドールが!アンジェリカとレイミ、そしてメイドドールたちが織り成すドタバタ劇をお楽しみください。
第九話 ルークフェルト公爵のメイドドール
「──えっ、庭師さん!?」
ぽんこつドールたちと合流したレイミの第一声が、それだった。宣言通り数分で目を覚ましたアンジェリカが、大儀そうに口を開く。
「……彼は、庭師ではない。ルークフェルト公爵その人だ」
「えー!」
「当然、公爵も私に気づいていた。身分を隠したほうが都合がいいと判断して、レイミの勘違いに乗ってくださったんだ」
「そ、そうだったんですかあ……」
まったく気づかなかった自分を恥じてか、レイミが肩を落とす。それを尻目に、公爵が慇懃に一礼した。
「女王アンジェリカ。此度は命を救って頂き、感謝の言葉もございません」
「礼なら、ぽんこつに言って頂きたい。あなたを助けたいと言ったのは、ぽんこつなのだ」
アンジェリカが、安らかな寝息を立てるドールの頭を優しく撫でる。
「──いや、もうぽんこつではないな。レイミの話を聞く限りでは、戦士と魔道士の適正を併せ持つ”魔法戦士”とでも言うべき変異体のようだ」
「すごかったんですよ! 一息で何十メートルも跳び上がって、──ざん! ざん!」
見えない剣を振るい、レイミが先程の光景を再現する。
「たった二撃で倒しちゃったんだから! ……もちろん、私もすごかったですけどね!」
そう言って、大きな胸を張った。
「……まさか、一度見ただけで”ヴィジャヤ”をラーニングするとはなあ。私が習得したときは、十年くらいかかったんだが」
「ふっふっふー」
鼻高々のレイミをよそに、
「──……う……」
ドールが、ようやく目を覚ました。
「……ご、しゅじんさま……無事だったんだ……。よかった……」
ドールが力ない笑みを公爵に向ける。
「──…………」
しばしの沈黙ののち、公爵が言った。
「メイドドールよ。主人でもない私を、命を賭してまで救ってくれて、ありがとう」
「あ──」
ドールの表情が翳る。
「……そっか。ぼく、メイドじゃなかったんだ……」
それを見かねてか、
「──あの、公爵さま」
レイミが、公爵に告げた。
「ぽんこつ──ドールちゃんを、雇ってあげてくださいませんか? そしたらドールちゃんも姉妹と一緒にいられるし、ハッピーエンドだと思うんです」
公爵が、きっぱりと答える。
「私が注文したのは、メイドドール四体です。その事実は変わりません」
「そんな……!」
レイミの言葉を遮るように、ドールが口を開く。
「……いいの。公爵さまは、ぼくのごしゅじんさまじゃないけど、みんなのごしゅじんさまなんだ」
残念そうに、しかし、必死に笑顔を浮かべながら。
「だから、うれしい。たすけることができて、うれしいから」
「──…………」
レイミが不満げに目を伏せる。
「……やっぱり、気難しくて頭が固いって噂、本当なんですね」
場を静観していたアンジェリカが、レイミに問う。
「レイミよ。公爵は、何故国境にいたと思う?」
「なぜって──」
小首をかしげながら、
「……なぜでしょう?」
「私たちを追いかけてきたのだ。私たちが途中で夕食をとっていたおかげで、追い抜かされてしまったがな」
「……?」
「だって、そうとしか考えられまい」
アンジェリカが、肩をすくめる。
「公爵は、筋を通す御方だ。融通がきかないとも言える。だからこそ、気難しいなんて評判が立つのだろうな」
「そうですね……」
「注文したのは、メイドドール四体。だから、その四体しか受け取ることができない」
アンジェリカの言葉を受けて、公爵が続ける。
「……だからこそ、メイドドールをもう一体、再発注しに来たのです」
「えっ」
「え……」
意外な答えに、レイミとドールが目を見合わせる。
「それも、自ら隣国を訪れるほど急いで、だ」
「急がねば、処分されてしまうかもしれないと思いましたから……」
レイミが、非難するような声音で告げる。
「だったら、私たちに言いつけてくだされば──」
アンジェリカが、レイミの言葉を遮る。
「あのとき、私たちは、女王でも側近でもなかった。ただの、ネクロスからの使いでしかなかった。そして、公爵は一介の庭師に過ぎなかった。それが、どうして、ドールを身請けするなどと言える?」
レイミが呆れたように言う。
「……本当に、融通がきかないんですねえ」
「よく言われます。ですが──私は、そのようにしか生きられないものですから」
公爵が、アンジェリカに向き直る。
「アンジェリカ女王。本来書面ですべき依頼を、このような場で直接お願いする無礼、どうかお許しください」
「構いません、ルークフェルト公爵。それで、依頼とは?」
「メイドドールを、一体──いや」
公爵が、ドールの背中を優しく撫でた。
「彼女を、身請けさせていただきたい」
「ごしゅじんさま……!」
アンジェリカが目を細める。
「理由は? 相応の理由がなければ、貴重な変異体であるこのドールをお譲りするわけには行きません」
「女王!」
レイミが、咎めるような目でアンジェリカを睨む。
「よいのです」
レイミに一礼すると、公爵はアンジェリカに向き直った。
「他の四体のドールが寂しがるから──というのは、言い訳に過ぎませんね。私は、心を動かされたのです。他の姉妹のために、自らを差し出す、その尊い精神に。それは、人間とて、必ずしもできることではありません」
公爵が、慈愛のこもった視線でドールを見つめる。
「──だから、彼女を助けたくなった。それが、理由です」
アンジェリカが、鷹揚に頷く。
「わかりました。では、ドールの意思に委ねましょう」
アンジェリカは、その場にひざまずくと、横たわり上体を起こしたままのドールと目線の高さを合わせた。
「お前は、どうしたい?」
「──…………」
ためらいがちに、ドールが答える。
「……ごしゅじんさまのところで、はたらきたい、です」
「よし」
「わ」
ぐしゃぐしゃ。アンジェリカが、乱暴に、ドールの頭を撫でる。
「お前は今からルークフェルト公爵のメイドドールだ。ネクロスの名誉を汚さぬよう、身を粉にして働くのだぞ」
「はい!」
ドールが笑顔で頷いた。
「──よろしく頼む、フィフ」
「ふぃふ……?」
「君の名前だ。少々安易だが、五番目だから、フィフ。気に入らないかい?」
「!」
ドールが、ぶんぶんと首を横に振る。
「うれしい……です!」
「それは、よかった」
公爵が、ドールに右手を差し出す。ドールは、その手を取り、立ち上がった。そんなふたりを眺めながら、レイミが小声でアンジェリカに告げる。
「……一件落着、ですね」
「たしかに、それはそうなのだが……」
アンジェリカが、苦笑しながら言う。
「元はと言えば、お前が錬成中に居眠りをしたせいなのだからな」
「覚えてましたか」
「忘れてたまるかあッ!」
「ひ~」
そんな漫才を尻目に、公爵が告げる。
「さあ、帰ろうか。私たちの家へ」
「はい!」
「──とは言え、魔法馬車は壊れてしまったのだったな」
「国境警備隊に保護してもらいましょう。フェンリル級を討伐したとは言え、まだ十一頭の魔狼が野放しのままですから」
アンジェリカがそう提案すると、公爵は頷いた。
「そうですね。フィフがいれば、大丈夫だとは思うけれど」
「おまかせください!」
公爵の御者を背負いながら、フィフが大剣を実体化する。
「ふつうの魔狼なんて、いちげきでやっつけちゃいますから!」
「はは、頼もしいな」
四人は、談笑しながら関所へと向かう。リーダーであるフェンリル級の魔狼が倒されたことで恐れをなしたのか、襲撃はなかった。
別れ際、フィフがふたりに頭を下げた。
「ありがとうございました!」
アンジェリカが答える。
「なに、気にするな。公爵に恩を売れたのだから、むしろ黒字というものだ」
「そうじゃなくて……」
フィフが、恥ずかしげに口を開く。
「……つくってくれて、ありがとうございました」
「!」
レイミが、はっと息を呑む。
「こ、こちらこそ」
そして、胸いっぱいの何かを隠すように、震える声で返した。
「生まれてきてくれて、ありがとう……!」
フィフが笑顔を浮かべ、駆け去っていく。
「──…………」
「泣いておるのか?」
「……泣いでばぜん……」
「泣いとるじゃないか。ほら、胸くらい貸してやる。少々薄いがな」
「ヴぁい……」
ドールと共に、レイミも成長していく。
それが無性に愛おしくて、アンジェリカはレイミを優しく抱きしめたのだった。
≪第八話 | 最終話≫ |
☆☆☆次回へ続く☆☆☆
来週金曜日の公開予定、お楽しみに!
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