皆さまどうも!こんにちは!毎週週末に配信、シナリオ関係でお世話になっている「株式会社共幻社」さんと共同ではじめました「ネクロス国の死霊魔術」のスピンオフWEB小説の最終話を配信いたします!
<本編の概要>
死霊魔術を扱う種族が集まった”ネクロス国”を舞台とした、女王「アンジェリカ」とその家臣「レイミ」。今回は侯爵より、メイドドール4体を納品するよう依頼を受けますが…なんと、そこにあるはずもない5体目のメイドドールが!アンジェリカとレイミ、そしてメイドドールたちが織り成すドタバタ劇をお楽しみください。
最終話 メイドドール フィフ
「──と、いうわけで、ドールの輸出による収入は横ばい。先月が収穫期でしたから、全体としては微増傾向にあります」
レイミの決算報告に、アンジェリカが言葉を返す。
「だが、もうすぐ厳冬期が来る。浮いた金で、入り用なものを輸入しておかねばな」
「国がまとめて輸入して、国民に格安で卸す。余った作物を国が買い上げるから、貨幣が国民に行き渡る。この仕組みを考えた人、頭いいですよねえ」
「褒めるな褒めるな──と言いたいところだが、この社会構造自体は、ネクロスが国として成立する前からあるものだぞ。我が国と相性がいいことは確かだがな」
掛けてもいない眼鏡を押し上げながら、アンジェリカが続ける。
「ドールの輸出を国家でやっているところが味噌だ。国庫が潤っているから、インフラの整備や公共物の保全などの国家事業を、国内企業に有償で委託することができる。輸出で手に入れた金貨を使い、経済を回しているのだな。だが、このシステムにも、もちろん不備はある。ネクロスは、ドール以外の産業や特産品が非常に少ない。国民が貨幣を稼ぐ機会が極めて乏しいのだ。アポロニアに出稼ぎに行く労働者の多さが、それを物語っている。法整備でどうにかなる問題ではないが、改善策を考えておかねばな」
「ほあー……」
「なんだ、そのアホ面は」
「女王、すごいなあって思いまして」
「すごいって、こんなものは経済学の初歩の初歩だぞ。まったく、この調子では、すべてを叩き込むころには老婆になっているかもしれん……」
「可愛いおばあちゃんになりたいですわ」
「皮肉だ、気づけッ!」
「ひ~」
お決まりのやり取りのあと、レイミが懐から一通の手紙を取り出した。
「そうそう、女王にお手紙が来てたんでした」
「手紙? 誰からだ」
「アポロニアの、ルークフェルト公爵からです」
「……まさか、あのぽんこつが何かやらかしたのではあるまいな」
「ぽんこつじゃなくて、フィフちゃんですよ」
「ああ、そうだったそうだった。ともあれ、読んでみないことにはなんとも言えん。開けてくれ」
「はい」
レイミが、ペーパーナイフで手紙の封を解く。
「ほれ」
そして、アンジェリカの伸ばした右手に、便箋を握らせた。
「えーと、なになに?」
しばし読み進めたあと、
「……ふっ」
「女王、笑ってます?」
「笑ってない」
「何が書いてあったんですか?」
「なに、ただの時候の挨拶だ」
「そんなので笑うはずないじゃないですかあ! 私にも読ませてください!」
「隣国の公爵からの親書を、そう簡単に読ませるはずなかろう」
「依頼書は見せてくれたのに……」
「あれは見せんと受注できんだろうに」
呆れたように言ったあと、アンジェリカが言葉を継ぐ。
「──だが、まあ、内容くらいは教えても構わんか」
「はい!」
「とりあえず、フィフはフィフなりに頑張っているようだよ。トラブルメーカーではあるが、そこは他の四体がしっかりフォローしている」
「ふむふむ」
「メイド適正こそないものの、努力すればある程度はなんとかなるものなのだな。このあいだは、ひとりでシチューを作ってみせたそうだ。このあたりの書き方が、孫を見る祖父のようでなあ」
「ふふっ」
「あとは、外出する際のSP代わりとしても重宝しているらしい」
「フィフちゃん、規格外に強いですからねえ」
「──とまあ、そんな感じで、公爵はネクロスのドールをたいへん気に入ってくれたようでな。今後、さまざまな業種や分野において、ネクロスのドールの導入を検討くださるそうだ。友人方にフィフを見せびらかしているそうだから、そちらからも注文が入るかもしれないな」
「おー! 私の居眠りが国益に繋がるとは」
「まったく、災い転じて福となすとはこのことだよ」
「私のおかげですね!」
アンジェリカが、呆れたように言う。
「災い本人の態度か、それが……」
「ひ~──って、あれ? ぜったい怒られる流れだと思ったのに」
「……今回の件に関しては、非常に怒りづらい。なにせ、現に結果を出しているからなあ」
「えへへ」
「──だが、失敗は失敗。居眠りは居眠りだ。今回の救出劇は、さまざまな幸運の上に成り立っている。フィフが錬成されなければ、そもそも公爵が魔狼に襲われることもなかったのだ」
「……でも、フィフは、作ってくれてありがとうって言ってました」
「言ってたが……」
「だから、私、今回のことは後悔してません。次からは、もちろん、気をつけますけど……」
「──…………」
溜め息ひとつついて、アンジェリカが言う。
「まあ、よい。改める気があるのなら、強くは言わん。それより、私は腹が減ったぞ。おやつを頼む」
「まだ午前十時ですけど……」
「十時のおやつを知らんのか」
「よく太らないなって感心しちゃいます」
「成長期だからな」
「御年583歳で、どこを成長させるおつもりなんでしょう……」
「もうすこし胸が膨れてくれんかのう」
アンジェリカがぺたぺたと自分の胸を触る。
「女王はそれでいいんですよ」
レイミが、小声で呟く。
「……もっと包容力があったら、全力で甘えちゃいそうですし」
その小さな呟きを聞き逃したのか、アンジェリカが訝しげにレイミを見上げる。
「いま、なんか言わなかったか?」
「言ってませーん」
「まったく、悪口だったら承知せんぞ」
「そんなこと、言いませんよ。──あなたは、私の、大切な女王さまなんですから」
ネクロス国の物語は、これからも続いていく。
騒がしい女王と、おっちょこちょいな側近が、また別の物語を紡いでいくだろう。
だが、それはまた別のお話。
≪第九話 |
おかげさまで最終話まで配信することができました!
また機会がありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。
シナリオ制作「株式会社共幻社」のご紹介
編集プロダクションとして書籍の編集校正・シナリオ作成などを請け負うほか、出版社としては電子書籍の発行、小説コンテストの開催といった企画を継続して行っています。『創作をもっとおもしろく』をモットーに、クリエイターの皆さまと連携しながら、より魅力的なコンテンツを作り出したいと考えています。